義理の兄になった人の家に行くとアウトドア雑誌が置いてあり、その中にサラリーマン転覆隊のコラムがあった。サラリーマンが危険な川下りをする話だった。
なんとなく気になっていたら、その書籍を古本屋で見つけた。購入して、何度も読み返す。筆者が電通の社員であることが分かる。仕事と遊び、同じエネルギーを注ぐことの大切さを知った。
この読書体験を通じてカヤックに興味が湧いてきた。いきなり買うのは怖いので、ガイドツアーに参加した。友人を誘い合計3名。1人1万。道東の歴舟川で初体験だった。
パドルの使い方、フェリーグライド、沈したときの脱出法、その後何度も自分が言うことになるのだが、この時初めて知った。
歴舟川は美しく、心に刻み込まれる。
その後、尻別川をガイドで下る。正直つまらなかった。もう1人でやろうと思った。サラリーマン転覆隊のように、とにかく飛び込まなければならない。
ネットで探すと8万ほどのカヤックがあった。フィールフリーというカヤック。素晴らしい製品だった。
カヤックのガイド本も購入し、近場でやれそうな川を探す。それが後のホームグラウンドになる美瑛川だった。
美瑛川にカヤックを下ろす。スプレースカートという超大事な道具を持たずに。そして堰堤の取水口に吸い込まれ、死にかける。
それでも懲りずにいろんな川に遠征する。釧路川、天塩川、そして歴舟川、石狩川や
空知川。
いつまでも川にいたいと思った。そんな時に、仕事を辞めることになる。この時、カヤックの会社をやるというハッタリを思いついた。そのハッタリは周りを説得するのに役立った。
ハッタリを言い続けると、精神構造が変わる。自分はカヤックの会社をやるんだという意識になった。退職金でカヤックを増艇する。
ハッタリが成り行きでライダーハウスを兄とやることになった。ハッタリのまま新しい仕事に翻弄される。まあ、カヤックは趣味で良いかと思っていたら「やりたいです」という旅人が現れた。
「殺すかもしれないよ?」というと
「死んでもいいです」といわれる
この彼、クサナギくんと下る。ミツビシミニカの窓にツーバイフォーをぶっさし、ルーフキャリアを作った。カヤックを積むとドアが開かなくなるので、窓から出入りした。
常にゲレンデは美瑛川だった。なので兄とやっていたライダーハウスが無くなるとき、美瑛に住もうと思った。
ライダーハウスのおかげで、いろんな人をカヤックに誘うことが出来た。これは誇りだ。自分の愛しているものを、誰かに伝える。生きている意味なんてこれで十分だ。
サラリーマン転覆隊のような激しい川を攻めてはいない。だが、気持ちは攻めている。誰かを川に連れて行くとき、それはどこかクレイジーな部分が無ければできない。
ライダーハウスが無くなり、再び俺はサラリーマンになった。カヤックに人を誘うことは無くなったが、これからもっと面白くなると予感している。転覆隊の魂が自分の中にまだ生きているからだ。
昨日、忠別川を下った後、お寺の掲句が目に入った。
「運は確率
縁は道理」
なるほどと思う。あの時、古本屋で中古本を見つけなかったら、自分の人生は大きく変わっていただろう。あの時、なにかの運が訪れたんだ。その後は道理だった。