神が顕現した
神がこの世界に現れた。14歳の肉体を持つ少年として。彼は唯一神を名乗り、さまざまな奇跡を行った。世界は震えた。
医者、科学者、政治家、宗教家が彼のもとに集い、彼を分析する。石をパンに変え、水をワインに変え、水の上を歩き、ステージ1のガンを治癒した。科学で説明がつかない現象を目の当たりにし、人々はうろたえ、そして崇めた。
国家は彼を独占しなかった。独占するには大きすぎるのだ。民主主義で選ばれた代表よりも上位の存在がいては不具合が起きる。かといって、独裁政権の元にいては危険過ぎる存在だった。
「で、ここに連れてこられたんだ」
と彼は言う。
「なるほど」
と君は答える。
バチカンの無菌室で君たちは話をする。悠久の時の間に起きた出来事を。宗教、戦争、科学、人間が知り得たこととまだ知らないことを。24時間の監視の中で、君たちは会話を続ける。
「やはり、無理ですか?」
「うん、これは病気じゃないしね」
「救世主が必要なんです」
「それは僕じゃないよ」
「あなた以外の、誰が…」
「君か、君以外が」
神の奇跡をもってしても、人類の絶滅は回避できそうになかった。新種のウイルスにより、人は子を作る能力を失い、人工的に受精され生まれていた。そうして生まれた人類には問題があった。
「ウイルスに弱いんです」
「僕、そのウイルスってわかんない」
「体の中にいる小さな生命です」
「生命なら愛さないと」
「奇跡でなんとかなりませんか?」
「僕の奇跡よりも科学のほうがすごいでしょ」
「そんなことはありません」
「あるよ、僕、この年齢になっても生きてるなんて信じられない」
「あなたは永遠です」
「死ぬよ、そのために来た」
神の力をもってしても、新しいウイルスに抵抗できず、人類は新種の抗生剤を生み出した。それは生命だった。単純な塩基配列を持ち、自己増殖し、ウイルスを食料とするあたらしい生物だった。
新しい生物を体内で飼いながら、あなたは神の介護をする。神の排泄物を拭い、食事を提供し、体位交換をした。
あたたかな春の午後、中庭で散歩をする。車椅子に神を座らせ、あなたは悟る。
「あなたも、こうだったんですね」

