モトハチ(元蜂の宿管理人のブログ)

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将棋はうつに効くー「うつ病九段」先崎学著を読んだ

将棋は容赦がなく、公正であり、自分を知ることができるゲームだ。そして、うつ病にも効くらしい。先崎学は「3月のライオン」の監修をしている将棋のプロで、棋界の大御所的存在というイメージだった。この本を見つけたとき「あれ、この先生、うつ病だったんだ」と思ったぐらい。読んでみて、将棋とうつ病、この2つを結びつけた画期的な本だと思った。こんな読書体験は初めてだ。先崎九段のファンになってしまった。

将棋と私

13年前に、居酒屋のお客さんと「ハチワンダイバー」という漫画の話をした。そのきっかけで、将棋を始めた。30歳だった。

お客さんと一緒に将棋の研究をして、その3ヶ月後に洞爺湖で行われるタイトル戦を見に行った。おっさん独特の行動力だった。

将棋にどんどんのめり込んでいくと、思わぬ副産物に気がついた。会話で緊張しなくなるのである。いままで、他人と会話するときは、エンジンでいうならばレッドゾーンギリギリまで頭を働かせていた。まったく余裕がなかった。しかし、将棋で「考える力」が自然と身について、アイドリングよりもちょっと吹かすぐらいの回転で会話ができるようになったのだ。

ものすごく、乱暴な言い方をすれば「頭が良くなった」のだ。思考力といのは、筋肉と同じで、使えば使うほど鍛えられる。それが現実だ。それからスマホ時代になり「将棋ウォーズ」というアプリで1日3局指し続けた。3000局以上さして、今では1500勝1500敗ぐらい。

東京の千駄ヶ谷にある将棋会館にも行った。駒を指す「パチリ」という音が、五月雨のように鳴り響く空間に足を踏み入れた時、全身がビリビリをしびれたのを覚えている。ちょうど、プロの指導対局が無料であるというのでお願いした。プロと向かい合ったときの、あのどうしようもない感覚!「いまから、正拳突きで、この岩をぶち割りなさい」と言われたような、あの感覚。そして、それすらもやさしく受け止めてくるどうしようもないレベルの差。どんなに頑張っても、到達できないその領域をちょっと知ることができた。

別に、プロになろうというわけじゃない。将棋はゲームだ。それも人生に役に立つゲーム。

うつ病と私

私はうつ病になったことがない。だが、現代社会で、この病気と無縁って人はすくないでしょ?それそれ、それです。

郵便局のときも、私を指導してくれた先輩がうつ病になった。原因は単純で人間関係。それも宿舎で隣にやってきた保険課の課長代理が原因だろう。

のちに、その課長代理の下で働いたのだけど、実に誤解されやすい人だった。鈴木宗男のような外見に、鈴木宗男のようなエネルギー、そして鈴木宗男のようなコミュニケーションをする人だ。ただ、酒の席でポツリと昔の苦労話を聞いたときは「ああ、この人は自分の繊細さなところを焼ききったんだな・・・」と思った。

ライダーハウスや居酒屋にもうつ病の人はやってきた。お客さんどうしが「ひょっとして・・うつじゃないですか?」と話しかけていたのは驚いた。「私もそうだから、わかるんです・・」とのことだ。

カヤックで死体を見つけたときも、うつ病でなくなった人だと知った。奥さんをうつで自殺されてしまって、その旦那がカヤックで探して、その手伝いをしてしまったのだ。事実を後で聞かされ、この病気はなんとかしなければ・・と思った。

うつにならないために

それから、うつ病にならない方法を探っていった。「オフロードバイクに乗れば良いんですよ」という人もいたし「山に登ればいい」という人もいた。うつは生命エネルギーの枯渇だ。ちょっとでもエネルギーが残っているうちに、仕事を止めて、楽しいことをやらなければいけない。

でも、現実問題として、仕事や責任が限界を超えてやってくるのが問題なのだ。うつになってしまったら、バイクや山登りどころではない。先崎九段だって、将棋すら指せなくなったのだ。「そこまで追い詰められるのか・・・」と衝撃だった。

先崎九段という人のレベルを、私が図ることはできない。だが、あの時、将棋会館で指導していただいたプロは、いま思い返してもタイトル戦などには出て来ていない。それは、珍しいことではなく、プロとはそうゆう世界なのだ。

だからきっと、プロ棋士にとって先崎学という人は、とてつもなく硬く、大きな岩なのだと思う。それを正拳で壊せと言われても「あはは、ムリっす」となるだろう。

そんな人が、将棋をさせなくなるまで沈んで、そしてゆっくりと登ってくる物語が「うつ病九段」だ。ひどいときは七手詰めが解けなかったというから、私でも先崎学に勝てたかも知れない。

そして、この本では精神科の医者である「兄」が出てくるのだけれど、はっきりと「うつは治る」と言っているのも印象的だった。

「うつは治らない」とか「うつの人のことを理解することはできない」など、世の中にはうつについて様々なことが言われている。この本はポップなジャケと、特殊な人間と、その人間関係があるけど、

うつ病になった人が書いて

・精神科の医者が治るという

この2つが特筆すべきことだと思う。

将棋はうつ病に効く

うつが治るといっても、そのことをはっきり目に見える結果として表せるひとはいない。気分なんて誰でも浮き沈みするものだし、はっきりと治ったなんて誰も言えないだろう。

先崎九段が特殊だったのは「将棋」があったからだ。将棋ほど、公正で、残酷に、自分の実力を示してくれるゲームはない。七手詰めが解けない状態から、ゆっくりと将棋を使って思考力を取り戻していったのだ。

最高のバロメーターだとおもう。将棋は決して甘やかさない、ぼかさない、いいわけもできないし、ごまかしもきかない。大人から子供まで、老若男女問わない、病気でも、病気じゃなくても、言葉すら通じなくても、誰だって同じフィールドに立てるし、全力でたたかえるのだ。

いま、自分はアプリで2級。これは強くはないけど、弱くもないレベル。弱っているときは連敗する。調子の良いときは結構勝つ。脳みそだって、病気にもなるし、脂肪だってつくのだ。適度な運動を心がけたい。