田舎の高校生は刺激に飢えている。
僕とキズくんもそうだった。
教室の机でポーカーとかしながら
自分の器は見ないで
・・いつかこの町を出て、ビッグになろう!
と将来に期待していた。
そんな間柄だった。
女子の一言は重い
そんなポーカーばかりしていた高校2年の夏、となりのカノウさんが
「 そんなことばっかりして、どうすんの? 」と突然切り出した。
何もいえなかった。 カノウさんは特別可愛いわけではなく、親交があったわけでもない、普通のクラスメイトだ。
( 今思えば、なぜ、あのときカノウさんはあんなこと言ったんだろう?不思議だ )
しかし、効いた。 女子に呆れられるってのは、高校生男子にとって弱点をつかれると同じことなのだ。
その日から僕はポーカーをやめ、塾と進研ゼミを使って勉強を始めた。 なにせ、2年間、まったく勉強をやってこなかったから大変だ。 キズくんとは疎遠になった。
それから1年ほどして、僕は札幌の私立文型に合格した。 とにかくうれしくて、キズくんが卒業後どうしたのかなんて目に入らなかった。
大学2年のとき、電話がなった
一人暮らしをして、うきうきの大学生活も2年ほど経過して、キズくんから電話があった。
「 もしもし、オレだけど、わかる? 」「 おー、あれ、キズ? 」「 うん、よくわかったな、実はオレ浪人中なんだ・・・・」
それから一方的にキズくんはしゃべり始めた。 実家で勉強してとてもいい大学を狙っていること。 おまえなんて目じゃないってこと。 塾にすごくいい女がいるってこと。 2,30分はしゃべり続けてた。
そんな電話が2,3回あった。 そしてぱったりとやんだ。
その後僕は地元に帰り、郵便局員になっていた。
キズは自殺してた
スナックで同級生と飲んでいたら
「 知ってる?キズ、自殺したって 」と聞いた
あまりのショックで吐きそうになった
「 躁鬱だったんだって 」
大学生のときに来た電話が思い浮かんだ。
「 ・・・・・・ 」
その後の会話は覚えていない。 だけど、自殺の原因の一つはわかる。
僕だ。
田舎の高校生は精神汚染されている
キズくんと僕の違いは、ひょっとしたらカノウさんが横の席にいたか、いないかの違いだけかもしれない。
僕は札幌で田舎コンプレックスを完全に払拭し、キズくんはそんな僕に嫉妬していたのかもしれない。 いや、していたんだろう、あの電話はそんな内容だった。
この前、キズくんのことを考えていたとき
「 ・・・せめて、バイクでもあればな・・・ 」と思った
なんでもいい、普通免許で乗れるスクーターでいいのだ、僕ら田舎の高校生は、通学圏内には将来も減ったくれもない、右肩下がりの斜陽産業しか目に入らないのだ。 なにが3ナイ運動だと思う。 都会だけでやってくれ。 なにが大人になれば・・だと思う。 高校生のときにしか吸収できないことがあるんだ。 テレビなどで同じ情報環境を得られるのに、現実はなんだ。 考える頭の前に、働ける手と、動ける足をもっているんだ、そっちを使わせてくれよ。 頭ばっかり重視するから、脱出不可能の死にたいルーチンに迷い込むんだって。
だから、せめて、バイクがあれば何かが変わったんだ。
田舎者にバイクを。