モトハチ(元蜂の宿管理人のブログ)

閉鎖したライダーハウスの元管理人のブログです

小説の練習:首吊り死体とクロローシュ・イザワ

俺は1人で居酒屋を経営していて、そこはなかなかの好立地にあった。駅から近く、それでいて近すぎない。そんなテナントが開いていたのは本当にラッキーで、直接交渉したら数万円家賃をおまけしてくれた。


そんな場所だから居酒屋は長続きした。割とスムーズに軌道に乗り、大したトラブルもなく、今では俺の体の一部とも言える。キッチンは小さいけど機能的で、すべてがジャストサイズに収まっている。俺の前の店子は知らなかったが、とあるお客さんから聞くことが出来た。


不潔な髪、洗っていないのが分かる服、なによりその異臭からホームレスだとすぐにわかった。「困るよ」と俺は言ったが「1杯だけ頼む」とぐしゃぐしゃの1000円札をカウンターに置いたから仕方ない。「1杯だけだよ、他のお客さんが来る前に出てってね」と言う。店内は異臭で満たされて、俺はこの人を追い返さなかったことを後悔した。


「冷」というので、日本酒のヒヤを出す。「なんで家に来たの?」と俺は話しかけた。ぶっきらぼうな接客をして怒らせようと思ったのだ。そうすればきっともう二度とこない。ところが話しかけてくれたのが嬉しそうに「ここの前の店にはお世話になった」と言った。


「じゅんちゃん」という居酒屋で、店主は60代。常連だけで回っている店だったが、とてもフレンドリーで良い所だったらしい。金融マンだったというホームレスのおじさんは、そこにお客さんに連れられて入ったらしい。


すぐに心が満たされていくのを感じたおじさんは、その店の常連になる。だけどある日融資の相談をじゅんちゃんから受けた。「たのむよ・・」というおやっさんに「なんで?」と聞いたおじさん。どうやら恩人の連帯保証人になってしまったということだ。


「その後は、まあ、ありがちな話よ」じゅんちゃんへの融資はおじさんの手際によってなんとか行われ、おじさんは借金を返すために必死で働いた。そして常連は散っていく。「稼ぎてえって気持ちが前に出ると終わりよ・・」とおじさん。それは俺もちょっと理解できる。


こうゆう商売では値段と満足度は店主の匙加減で決まる。おいしい料理や酒を出す店は他にもあるし、居心地が全てなのだ。金の事ばかり考えている店主の店では落ち着いて酒は飲めない。


じゅんちゃんは傾き、借金は焦げ付いた。すぐに抵当を回収し、債権をサラ金に流したらしい。店にはチンピラが出入りするようになり、おやっさんは死んだ。「そこで首吊ってたよ」と俺の上にある梁を指さした。


ぞわっとした。タイルのシミがじゅんちゃんのおやっさんの体液に見えた。でも根性で知らん顔をして「もう一杯」というおじさんにお釣りを投げつけて放り出した。「二度とこないでね」と言い、空気を入れ替える。

その数日後「じゅんちゃん」の息子を名乗る男から手紙が来た。分厚い封筒に切手が乱暴に張り付けてあり、汚い字で県外の住所が書いてある。ヤレヤレと俺はカウンターに座って手紙を読み始めた。
「拝啓 私は貴店の前にあたる「じゅんちゃん」の経営者、川原純一の息子の啓司と言います。今回はこのような手紙を突然送るご無礼をお許しください。さて、突然ですがこのような手紙を書く理由についてお話しさせていただきます。これはその店舗を使用する人間にとっては貴重な情報になると思われますので、必ず最後までお読みください。
 ご存じかと思われますが、私の父はその店のカウンター内で自殺しております。原因は借金とされていますが、実はそうではありません。借金は私が肩代わりし、すでに完済しておりました。その時の金融屋が頭のおかしい男で、すでに完済された融資の返済を求めていたのです。
 何度も金融機関に説明に上がり、私も同席しました。担当者は精神病に犯されており、すでに退職しているとのことです。そのようなわけで当行といたしましてはいかんともしがたいという話でした。そして次にやってきたのなら、それはもう警察の領域と言うことです。
その日のうちにその元金融屋はやってきました。私はすぐに警察を呼び、彼を確保してもらいました。これでこの一件は終わりかと思われましたが、実はそこからが大変でした。
キ○ガイが同類を呼ぶように、それから頭のおかしな客が増えたのです。その中に「クロローシュ・イザワ」という男がいました。変な名前ですが、父は名刺をもらっていました。「呪士」という肩書がそこに書いてありました。この手紙にも同封させていただきます。
呪士とはなんでしょう?私はそのことを父に質問しましたが「よくわからねえ」とのことです。そこで私はじゅんちゃんに張り込み、クロローシュ・イザワを待ちました。そしてすぐに対面できたのです。
「呪士とはなんだ?」と聞きました。「読んで字のごとくでございます」と髪の長い、不潔な男は言いました。その青白い顔と大きな瞳に嫌悪感しか感じません。なぐりつけてやろうとしたとき、イザワが説明を始めます。
「お金をもらって、人を呪う仕事です」とクヒヒと笑います。「誰からもらった?」と聞きましたが「クライアントの情報は秘密です」と言います。ですが、あの金融屋が金を出しているのはすぐにわかりました」
「呪いとはどうするのだ?」と聞いたら「私のはカバラを使います。22の文字を使って円陣を書き、悪魔を召喚するのです」と言いました。おそらくまだ残っているはずです。父が首を吊った場所を中心に、ミミズの様な文字が書かれていないでしょうか?それこ


ここまで読んで、ごみ箱に捨てた。中には名刺も入っていた。クロローシュ・イザワの名刺、裏には「この名刺を送ることから呪いは始まります」と書いてある。それも捨てた。


店の扉をロックして、魔法陣を確認する。確かに、汚れのように思っていたがある。ヘブライ文字22字で世界の秘密やすべてを解読するという思想だ。中学生のときに流行った。俺はBGMを大きくして、タブレットで明日香キララのAVを流し、オナニーした。そのティッシュをゴミ箱に捨てて、中身をすべてゴミ袋に入れて口を縛った。換気扇を全開にする。くそったれの死体や、くそったれのキ○ガイや、くそったれの息子、そして中二病のクロローシュ・イザワよ、俺の精子で浄化されろ。生命力こそがこの世の全てなのだ。俺はレッドブルをカシュっと開けて、店をオープンさせた。