裁判傍聴の記事になります。
今回の事件は「有印私文書偽造」というものでした。
車で追突されたときに無職だった被告が、「休業補償」をだまし取った犯罪です。
傍聴していて何度も思うことなのですが、今回も
「こんな人がいるのか!」
と衝撃を受けました。
世の中はいい人ばかりではありません、そのことを知ることができ勉強になりました。
※※※
私はライター修行の為に、これからできるだけ裁判傍聴に行くことにしています。
ゲスなことかもしれませんが「言葉」を生み出すには人間の渦にもまれることが重要であると思ったからです。
仕事や登山に没頭することもできるのですが、やはり人間観察こそがこの道には必要なのでしょう。
「有印私文書偽造」の裁判はその最もたる例になりました。
「あ、これナニワ金融道でのってたやつだ!」
事件は昨年の12月に起きました。
被告の乗っていいたレガシィにクラウンが追突したのです。
被告はその時から整形外科に1週間通い、それから自分の意志で整骨院に転院しました。
それから103日間の分79万円を「休業補償」としてあいおい損保に請求したのです。
実際に被告は無職であり、知人の会社で働いていることにしました。
そのことが発覚したのは、被告が別件の交通事故をやらかしたからです。
別件でやらかした交通事故の調書に「無職」と書いてしまったことから、被告の有印私文書偽造が発覚したのでした。
つまり損害保険会社に請求した休業補償には「会社員」として働いていると言い、自分が事故を起こした時には「無職」であるとしたのです。
この事故が無かったら表に出てこない事件だったのでしょう、なにせ重要なキーは被告の体の内側なのです。
他人の体の内側ことですから「ここが痛い」といえば、それがウソかどうか証明することは難しいのでしょう。
たった1週間で整形外科から転院したのも「治療が合わない」という言い訳です。
事故から9か月が経過した現在でも「後遺症がのこっている」といっています。
私は「ああ、これナニワ金融道で見たやつだ」と思いました。
被告の症状がウソっぽいのは誰が見ても明らかです。
病院の医者によれば「3週間で完治する」という症状だったようです。
だからすぐに整骨院に変えたのでしょう、大柄で押しの強い被告がゴネればいくらでも整骨院に通えたはずです。
それでも79万の請求にしたのは「税金がかかって来るから」ということです。
ナニワ金融道でも事故られたヤクザがごねまくって、家族が崩壊するまで書かれています。 その犯行は知能的であり、素人が立ち向かえるものではありません。 ただ、今回の件がマンガと違うのは、ゴネる先が損害保険会社というプロだったことでしょう。
あいおい損保は味方にすると頼もしいが敵に回してはいけない
今回被告が請求したのは79万でしたが、実際に払われたのは17万です。
その前に被告の偽造が発覚したので、実際の被害額は17万といっていいでしょう。
ただ、被告は保釈金10万を保釈支援協会から借りて保釈されていますが、17万の被害を弁済していません。
「はやく仕事をして被害弁償をしたい、ただ裁判があるから就職活動がしにくい」
という「ハロワに着ていく服がない」レベルの言い訳をしています。
38歳で赤茶髪をクリロナ風にした色黒がっちりな男性が言う「就職活動」ってなんでしょうか?
被告は被害者であるあいおい損保を舐めているのではないでしょうか。
だまし取った17万はネットで馬券を買ったりして使っちゃったので、あいおい損保に払う金がいまはないということです。 ライダーハウスでアルバイトをすれば1か月で稼げる金額でしょう。
被告人の妻が証人に立ちましたが「生命保険の営業の仕事では17万の弁償は難しく、借りることもできなかった」と言います。
被告曰く「先に保釈金を払ったのは、友達に弁済金を借りるため」ということです。
この子供のような言い訳をくりかえしている男に猛っている人たちがいました。
もちろん検事、そしてあいおい損保です。
傍聴席にはスーツ姿の男性で8割埋まっています。
私は前列の証人の横に座っていたのでわかりませんでしたが、後ろに座っているスーツの男たちはおそらくあいおい損保がわの人たちでしょう。
その怒りを代表した検事が最初の攻撃に入りました。
事故の相手とは知り合い?「いえ」
17万以上は弁済しない?「はい」
でも、反省文では『全額返済する』って言ってるよね?
「え?そんなこと書きました?まあその時はそんな気持ちだったのかもしれません」
ここら辺から被告が焦ってきたのがわかります。
聞かれてもいないことをべらべらしゃべるのです。
「この裁判は17万に対してのものですよね?」
「治療が合わなかったんですよ、今でも後遺症があって自費で整骨院に通ってるんです」
「1週間しか行かなかったけど、リハビリで触られてすごく痛かったんです」
「整形外科の先生にはそのことは言いませんでした」
いくら自分の体のことだからって、プロの医者を否定してしまったら説得力がありません。 それから弁護人のスピーチがあって
「被告は反省している、17万は高額であり、被告は被害者と話し合って被害金を支払うつもりである」という言葉の直後に被告の最後の言葉
「あいおいに聞きたいです!いくら払えばいいのでしょうか?」
といって裁判は終わったのでした。
法廷は「ウソだろ・・・」という空気に包まれます。
いくら立証できないウソだといっても、ここまでやったらどうなるのでしょうか?
反省してないし、全額払う気はさらさらなさそうです。
裁判長の言葉を遮ってまで、自分の言いたいことを発言した被告。
最後の発言は、普通だったら「反省してます、もうしません」ということを言う場です。
でもカッとなってしまったんでしょう。
これが検事とあいおい損保のシナリオだったら「おそろしい」と思いました。
感想:その自信はどこから来るのだろう?
バレなければ「ウソ」ってついていいのでしょうか?
その自信はどこから来るのでしょう?
浅い知識ですが心理学用語で「人生脚本」というものがあります。
英語では「ライフ・プロトコル」といい、自分の中にあるどうしても取ってしまいがちな行動パターンがあるということです。
被告だったら「バレなかったらウソはついていい」というプログラミングがされているのではないでしょうか。
それは子供の時、どこかで身に着けた「必勝法」です。
その威圧的な外見と、磨き上げたウソの力を使えばたいていのことは通ったのでしょう。
今回被告が「働いている」ということにした会社は「本当は自分が金で買った会社だと思ってた」といってます。
裁判長の質問に「その社長とはグルなの?」と聞かれ「知りあいですが、グルではない」と答えています。 検事が「事故られたクラウンとは知り合い?」と聞いたのも、おそらくウラではつながっているという推測?があるからでしょう。
一番もめた反省文のなかの「全額弁済」というポイントも「自分の中では~」と何度も繰り返しています。
確かに、被告の体の内側や頭の中を証明することはできません。
ただ、裁判ではそれは通用するのでしょうか?
きっと裁判長の心象は最悪です、被告の「必勝法」もあの裁判長には通用しないでしょう。
求刑は2年、初めて判決が気になった裁判でした。
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