小さいころ、父がネズミを殺したシーンが目に焼き付いている。
ネズミはかごトラップで捕まえられていて、ゴミ箱に水を張りトラップごとぼちゃん!かごの中であえぐネズミが忘れられない。
それから30年以上が経過して、再びネズミを捕まえることになった。カベの中を走る足音が相当な大物を予感させる。ホームセンターで700円のトラップを買った。
りんごをぶら下げて縁の下に置く。「できればかかるなよ」と思った。ネズミは良く良く観察するとかわいい目をしている。殺さないでいられるならそのほうがいい。
が、朝見るとかかっていた。やはりでかい。持ちあげると重量感があり「ぎゅー!ぎゅー!」と鳴くのだ。悲痛な叫びが「なぜ、ころすのだ、俺を食うのか?」と言っているようだ。
「すまん、食わぬのだ」「では、なぜ?」「なんとなく邪魔だからだ」「・・・・!!」という心の会話をする。
あの時の父のようにゴミ箱に水を張り、トラップを落とした。直視できないから祈った。ねずみに許せと祈ったが、よく考えたらそれも傲慢な話だ。許さなくてもいい。父もそう思っていたのかもしれない。
しばらくしてトラップを引き上げた。ネズミは格子をつかみ、悲痛な表情でこっちを見ている。庭に埋めようと思ったら、燃えるゴミに出すのがルールらしい。
その理由が「汚らわしいから」というイメージだからのようだ。
トラップに再びリンゴをセットした、今度はなるべく大きめにカットする。たしかに汚らわしいと思った。