いま、アタシが教えている派遣のおじいさんはやる気がある。
「これ、教えてください」とバイトのアタシに仕事を習いにくるのだ。
んで、昨日あたりから「もう、これやらせてもいいかな?」と思い、
鋭利な刃物を取り扱う仕事を教えた。
「ぜえったい、ココに触らないでね!絶対だよ!」と念を押したんだけど、
今日さっそく怪我をした。 頭から血がまっかに流れていて、仮面をかぶってるみたい。
幸い傷は浅そうだ、病院にいってもらって反省会。
「・・・・・やる気はあったんだけどね」
「・・・・・一日たてば忘れちゃうんですよね」
そう、おじいさんは教えられたことは次の日に忘れてしまう。
3回目くらいでうっすらと記憶の膜が張るようで、5回目くらいでなんとか覚えるのだ。
でも、やる気はあるのだ、わかるよ、アタシもそうだった。
郵便局の保険の営業として、完全に行き詰っていたころ、なんどか先生に教えを乞うた。 実際に同行させてもらったり、講座に出席したりした。
しかし、一年ぐらいたったころだろうか?「キミはやる気がないからな~」といわれ
?
となった。 やる気だけはあるのだ、実績が上がらないだけで。
なぜ、先生がそんなことを言ったのか理解できたのは、仕事を辞める決意をしたときだ。
先生に教えを乞うたあれは、やる気なんかじゃない、熱心に仕事に取り組んでいるというアピールなのだ。
褒められたかっただけなのだ、そのためのやる気のあるフリをしていたのだ。
深層心理ではとっととこんな仕事やめたかったのに、褒められたくてやる気のあるフリをしていたことに気づいた。
そう、アタシは保険の営業が死ぬほど嫌いだったのだ。
だから、おじいさんのやる気はわかる。
わかるよ、アタシもそうだったからね。
処せ術なんだよね、やる気のあるフリをするのが。
教えてもメモすらとってなかったからね、そりゃ忘れるよ。
実は、ちょっとだけ「危険かな?」って思ってたんだけど、
おじいさんのやる気に対して、上手いウソが思いつかなかったんだよね。
めちゃくちゃ厳しく教えて、体に叩き込むか、
「使えん」と突き放してしまうかすれば、今回の怪我はなかったんだろうけど、
それができない自分の未熟にややうんざりしています。
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