夜勤の休憩中にスマホをいじる。まとめサイトとかを読むのは飽きたし、SNSはあまり熱心ではない。んで、気になってる本とかをジャンジャン買って読むのだけど、そもそも気になっている本がなくなってくる。
そこで、好きな小説家の小説を何度も繰り返し読む。それは面白いし、そこからしか取れない栄養がある。ただ、それも限度があるのだ。
だから自分で好きな小説っぽい小説を書いている。そこから栄養を得ることができるのだ。灼熱の砂漠を生きるラクダのようなことをしている。
んで、それをしているとイラっとしてくる。
「ここは説明が少なすぎる」
「もうちょっと読者に寄り添わなければ受け入れられない」
「で、ここって何が言いたいの?」
などなど・・・ラクダが自分のコブのなかの水に「まっず!」と思うようなことだ。
そこで解決策。AIに読み込ませて改善してもらおう。
元の小説(クソ長いので読まないでOKです)
りっちゃんの黒いCBRの後ろにまたがって「おお」と驚く。視点が驚くほど高い。それでいて後部座席はCDほどの大きさしかなく、快適な乗り心地とは遠い乗り物だ。交差点やカーブを曲がるたびに、CBRは横に傾き「あ、死ぬ」という気分になる。俺のバイクとはえらい違いだ。牧歌的なポニーとサラブレットぐらい違う。心臓の大きさが違う。カマキリとドーベルマンぐらいの熱量差がある。パワーが桁外れだ。2人乗りなのに、まったく苦にしない。高速に乗ったと思ったら120㎞ぐらいのスピードで走り続けた。
「もっと出そうか?」とインカム「いや、これぐらいでいい!」とつい怒鳴ってしまう。風切り音がゴオオオオオ!とヘルメット内部をゆらしていて、弾丸のように空気を切り裂いているのがわかる。カウルが作り出したスクリーンから手を伸ばせば、後ろに弾き飛ばされるだろう。
そんな状態でも人間とはえらいものだ。1時間もすれば慣れてきてなんとか会話ができるようになる。「つかれてんか?」「いや、大丈夫」「そか、休みたかったら言ってな」「わかった、あとどれぐらい?」「まだまだ、2時間ぐらいかかる」「・・・」「お、絶句、まあ次の町で給油かな」「次の町はどれぐらいでつく?」「あと1時間もかからんよ」「まじか」「じゃ、急ぐか~」それまでおとなしかったエンジンが吠え出した。ウォン!と狩猟犬の威嚇のような鳴き声。それからコオオオオオオオオン!という独特な高音が鳴る。軽くフロントが浮いたと思ったら接地し、空を飛んでいるような感覚になる。不思議と風切り音は止まり、どこか静寂な雰囲気。車線の破線がレーザーのようにつながり、横を見ると景色が恐ろしいスピードで後ろに吹っ飛んでいく。緊張で体がまったく動かない。この狂った景色を作り出している狂った人間の腰にしがみつくしかない。「フォーゥ!!」という声がインカムとヘルメットの外から聞こえた。楽しんでるのか。「楽しんでるぅ?」楽しんでいるようだ。「すごい!」とだけコメントできた。「いくよ!スピードの向こう側!」エンジンの長い遠吠えが一瞬止まり、コンッ!というシフトアップの感覚、そして再び遠吠え。キュゥウウウウンと視界が小さくなっていくのがわかる。ワンミスで命が吹っ飛ぶスピードだ。コケたらアスファルトで大根おろし、もしくは壁にトマトのようなシミをつくるだろう。「たあのしいいいいいいい!!」という声が聞こえてくる「ヤアヤアヤアヤアヤアヤア!!!!!」と俺も壊れてしまった。精神が自分を守るために、環境に合わせて形を変えているのだ。
高速を降りて、田んぼのなかにあるローソンに止まった時。地面がすごい勢いでスライドしているのを感じた。電車に乗っているとき、隣の電車が動いているのに自分が動いているように感じるあの感覚に近い。思わず膝をついて、このしっかりとした、まるでピクリとも動かない地面にヘルメットごしキスをした。そしてバイザーを上げ、吐いた。りっちゃんがローソンから2リットルの水を買ってきて「わはは」と笑いながら吐しゃ物を流した。だがそれぐらいの水では汚物を薄く広げただけで、結局ホースを借りて駐車場をきれいにした。天気は素晴らしく良くて、きらきらと水をはった田んぼが輝いている。「なんか楽しくなってきたわ」とりっちゃんは水まきを楽しんでいた。
途中ラーメンを食ったりしながら、バイク3台は走り続けた。16時、目的のライダーハウスに到着する。その間、捕まった信号は5回ぐらいだった。
「こんちゃーっす」とりっちゃんが建物に入っていく。「ライダーハウスAB」という看板がなければただの民家だ。いったい築何年なんだろう?中に入ると小さいころに連れてってくれた祖母の家のにおいがした。小さい玄関に強引につけられた棚に、いろんな靴が強引に押し込められていた。サンダルが地層のように重なっており、そのサンダルたちを踏みつけて靴を脱いだ。中は汚いし暗い、窓はあるのだがきっとこの建物が作られてから1度も拭かれていないだろうし、廊下はカーペットが引かれているのだけれど、その中に無数の生物が発酵しているいやな温かさがあった。物音がする部屋に入るとそこは洗濯室で、洗面台やシャワー室もあった。シャワーを浴びている人に「こんちゃーす!」と遠慮なく声をかけ「おばさんいるー?」と遠慮なく質問する「まだ帰ってないよ!」と女の声がした。「じゃ、ちょっと俺もシャワーはいらして?」「いやー!」といちゃいちゃしているので、無視して奥に進んだ。といってもあとは階段と部屋しかない。階段を上がるのはためらわれた(すべてのステップに物が置いてあった)ので部屋に入ることにする。そこは茶の間で大きな机が1つとテレビ、台所と椅子に座って食事できるテーブルがある。人は誰もいなくてがらんとしている。大きな窓のそばにインド調なカバーがかけられた2人掛けぐらいのソファがあり、壁際には本棚「怪奇!ほんとうにあった怖い話」とかのコンビニ本があったので適当に手に取ってソファに座って読む。ここまで超スピードの物体に乗ってきたので、体が疲れていたのだ。座り込むとソファから独特の粒子が噴出してきて、それを太陽光が温める。CDぐらいの椅子に座り続けた俺のケツが「これだよ、これ」と安堵しているのがわかった。漫画は女性向けのホラーだったが、俺にとってはこの環境のほうが恐ろしかったのでそれが逆に面白かった。漫画の世界のほうがリアルに感じる。幽霊が出てくる部屋の清潔なことよ、誰かの洗濯物が庭先に干されていて、そこに女性用の下着と男性用のパンツが干されていたり、壁には無数の写真、バイクと若者たち、「セックス禁止!」の張り紙、「オナニーは?」という落書き、「私たち結婚しました」の黄ばんだはがき、スーパーニッカ4リットルボトルとウニのような灰皿、「1週間たったら捨てる!」と書かれた冷蔵庫、プレステ2とセガサターンとゲームキューブ、ケースに入った日本人形、全国各地のおみやげやペナント、そしてなんというか誰かの視線。「お、くつろいでる?」と女が入ってきた。おどろくことに若い。小柄で肩ぐらいまでの髪が濡れている。「あ、さっきシャワー入ってた人?」「そうだよ」「ごめんね、いきなり」「あなたが謝ることじゃないよ」「だよね」「あいつはちょっと走りに行くってさ」「ふーん、元気だね」「ここは初めて?」「うん、変わったところだね」「そう?ライダーハウスなんてこんなもんじゃない?」「おれ、1つしか知らないから」「あ、蜂?」「そう、そこから来た」「私も蜂にしばらくいたけど、あのデブのおっさんまだいる?」「あ、医学部志望の?」「そうそう」「まだいるよ」「あいつ苦手なんだよね、あいつがいるから蜂には女性が住めない」「ここは長いの?」「うん、あと1週間ほどで農作業のバイトが終わるからそれまでいる」「へー」「あとは男が4人ぐらい沈没していて、そいつらも今日は農作業のバイト」「へえ、でも女の人1人って怖くない?」「べつに、ここはオーナーも女性だしね」「そうなんだ」「夕方には帰ってくるよ、その人に1泊1000円渡してね」「どこで寝るんだろう?」「2階にいけば適当にベッドがあるから」なるほど。「私のことはコズってよんでね」とコズは笑った。シャワー上がりの女性とこんなに会話が弾んだことにおどろいた。俺は女性の扱いがうまいほうじゃない、というかむしろ不能だ。一生を童貞で過ごすんだろうと覚悟している。だが、コズと話していると自然と言葉が出てくる。体が女性っぽくなく、中性的だからだろうか。だが、コズはきっと化粧をしてちゃんとした服を着ればかなりのモノだと思う。「コズって話しやすいね」というと「まあ、ライダーハウスだからね」という。「ライダーハウスってさ、話すことってだいたい決まってるじゃん、どこから来た、とか、どこに行くとか、そうゆうのってラクだよね」「そうかもね」「だから結婚しちゃった人とか多いんだよ」と壁のはがきを指さす。「でもいま女性ライダーって少ないんじゃない」「まあ、いまどきバイクにのる女の子っていないかもね」「コズはなんでバイクに乗ってるの?」「お父さんの影響」「へえ」「スズキのさ、GSRに乗るのが小さいころからの夢だったの」「変わってるね」「ずっとほしいほしいってお願いして、やっと免許取って、すぐにここに来た」それからバイクの話になったが、俺の知識では相槌がやっとというぐらいコズのバイク知識は深く広かった。「あ、ところでやっぱり死体?」とコズが話題を変える。死体、が、したい、に聞こえ何のことだか分らなかった。自分の下半身が誤作動する。わたしとシたい?と聞こえてしまい、血がぎゅんぎゅんとへその下にあつまった。脳が冷たくなり、セックスの予感に息が止まった。ホコリや浮遊物だらけの空気が突然甘く感じられる。「死体なら生き返って、どっか行っちゃったよ?」とコズがいうと、全身が(おーい!勘違いだぞ!)という号令がかかる。下半身に集まった血がほどけ、心臓が正常のリズムを取り戻し、脳がフリーズから再起動する。
死体
「死体のおじさんはね、3日前ぐらいにやってきて、2日前ぐらに死んで、昨日生き返って出て行ったよ」と真顔でコズは言う。俺は頭が混乱して質問が思い浮かばない。「えっと、詳しく説明するとちょっと長いんだけど、今日ってほかにも人くるんでしょ?」「俺らのほかに2台、バイクで来る」「じゃあ、夜に話すよ、そんときにはヘルパーの人たちも帰ってくるし、おかあさんもいるだろうし」ということでコズは出ていき、再び取り残される。俺は漫画本を棚に戻し「人は見た目が8割」という本を手に取った。本は面白かったが、コズのいうことが気になって仕方がない。3日前にやってきて、2日前に死んで、昨日生き返った?何を言っているんだ。コズは見た目も話した感じもまともだけれど、ひょっとして精神世界に深い底なし沼を持っていて、こんな話をするのが好きなんだろうか?じゃあ、あの噂は結局コズの妄想というか、実験のような感じで、こうしてヒマな旅人をABに集めるためのアドバタイジングってことなんだろうか。うーむ、だとしたら正解だ。こうしてのこのこやってきてしまう俺たちがいるということは、今日はこれから人がワラワラとやってくるかもしれない。と思っていたら「すんませーん」と旅人がワラワラやってきた「あ、おかあさんいる?」「まだ帰ってきてないみたいですよ」「そっかー、今日泊まれそうかな?」「俺もさっき来たばかりなんで分かんないですけど、大丈夫なんじゃないですかね?」「大丈夫だよー!」と2階からコズの声が聞こえ、コズが下りてきた。ついでに俺も案内してもらった。2Fの寝床は畳を半分に切ったような長方形のマットレスに、べニア版でささやかな仕切りがあるだけのスペースがたくさん作られていた。ここに荷物を置けばそこが自分の場所になるらしい。さっき来たひげの男はガタイがいい。こんな場所に寝られるんだろうか?とおもったら「俺は庭にテント張るわ」と言ってシャワーを浴びに行ってしまった。なるほど、そんなやり方もあるのか。テントを張るのを手伝いながらいろいろ話した。ひげは「もーさんって呼ばれてる」と自己紹介し、普段は東のほうで牧場のアルバイトをしているらしい。死体の話を聞いて1日休みをとってやってきたのだとか。暇だねえ。そんな話をしているうちにりっちゃんが帰ってきて、先生とハイジも到着した。ABに沈没しているヘルパー軍団も仕事を終えて帰ってきて、シャワーは渋滞した。おかあさんとよばれているオーナーもやってきて「あら、今日はにぎやかだね」と笑った。挨拶すると「楽しくやってね、喧嘩はしないでね」と笑う。それから晩飯の話になり、ここではスーパーまで代表が買い出しに行き、人数分の食事を作るのだという。金が集められ、じゃんけんにより俺ともーさんが担当になった。移動手段を持たない俺はモーさんのバイクの後ろにつかまり、スーパーで野菜と肉を大量に買った。「カレーにすれば間違いないだろ」とモーさんがいうのでその通りにした。ABに戻り、カレーを作りながら酒を飲んだ。ビールはまぼろしのように消えていき、スーパーニッカがいきわたるごろにカレーが完成した。でかい鍋にたっぷりと作ったカレーは、11人の男と1人の女によってあっさりと枯れた。「で、死体の話なんだけど」とコズがいう。
3日前。ここら辺は雨が降っていて、農業アルバイトは休みになった。畑に入れなくなるからということだ。だからヘルパー軍団はリーダーの男が乗る車に飛び乗り、風俗ツアーに出かけて行った。ABに残ったのはコズとおかあさんで、おかあさんは別に家があるから夜にはいなくなる。そんなところに「落ち武者」という風体のおっさんがやってきたのだ。「こんにちはーって小さい声が聞こえたから玄関に行くじゃない、すると雨にぬれたおじさんが立ってるのね。おもわずヒッって声が出ちゃうぐらいおっかなかったんだけど、まあ雨が降って急にライダーハウスに入る人ってめずらしくないし、この人もそんな人かなーって案内したんだよね、で、その日はそれで終わったんだけど、次の日は晴れておじさんは濡れたジャケットとか服とかを洗濯して外に干していたから連泊ってことになったの、話してみると、まあ、どこにでもいるような気弱な、存在感のないおっさんなのね」雨でずぶぬれになっていた落ち武者は乾燥するとどこにでもいるようなサラリーマンになり、酒を飲むとほがらかに「すんまへんなあ」と京都なまりで話す無害な人と認識された。だが、酒が進むにつれ表情は暗くなり、ぼそりと「わし、本当は死ぬつもりで来たんですわ」と話した。コズとおかあさんは落ち武者の話を聞きながら「そんなこと言わないで、楽しいことはいっぱいあるよ!」と励ました。「はは、ありがとうございます」と笑い、薬を飲んで寝てしまった。「で、次の日さ、部屋に行ったら冷たくなってるの」「警察じゃん」「だよねー、でもその日はみんなバイトがあったし、おかあさんに書置きして、おかあさん案件にしようってなったの」
「死んでたってマジなの?」と先生が聞く「マジ、だって脈も図ったし、呼吸もしてないし、瞳孔も開いてたもん」とヘルパー軍団の1人が言った。「佐藤ちゃん頭いいもんね」「んなことねーって、常識です」常識があるなら死亡が確認される前に警察呼ぶだろと思ったがここではそんな理屈は通用しないらしい。「で、どうやら死んでます、警察か病院に連絡してください」っておかあさんに書置きしたんだよね。「でもその日は私忙しくて来れなくて・・・」とおかあさん。カラオケ会の集まりがあったらしい。んで、バイトから帰ってきたコズたちは朝となにも変わっていない状況に驚いて、これはさすがに警察に連絡しないといけないんじゃないかってなったのだか、それに異を唱えたのが目つきの鋭い高田という男だった。「いや、俺さ、もとやくざで警察アレルギーっていうか、ここも営業許可?取ってないでしょ、だったら警察やってきたらいろいろ突っ込まれて、たぶん閉鎖ってなるんじゃないかなあと思ったの」そんなことを話していたら、新規の旅人がやってきて、その人に「実は・・・」と死体を見てもらったという。さぞ驚いただろう。いかにも常識人っぽい30歳ぐらいのその男は、見た目とは裏腹にこうゆうことが大好きだったようだ。佐藤ちゃんと一緒に呼吸や脈や瞳孔を確認し「これは死んでますね」と言って「なんかいいアイデアないですか?」と高田が聞いたのだが「私も実は会社の金を横領してしまって、いまそのほとぼりを覚ましているんです」と言った。訪問介護をしているというその男はモリケンと言い、つい利用者のおばあさんの家から通帳と印鑑と暗証番号を持ち出して、つい240万ほど引き出してしまったという。「家族に怪しまれて、そこで認知症だからよくわからないうちに使ってしまったんでしょうという言い訳をしたんですね、実際そうゆうことはよくあるし、まともなときはATMも操作できる人だったから、でも考えてみたらATMって隠しカメラがあるし、警察が入ってきたらバレるなあ・・・って思ったんですよ、でもうまい感じで様態が悪くなってきて、あと3か月もすれば、まあ、水に流れるんじゃないかって・・アハアハ!」と笑うモリケンにたいして、コズや高田は説教をした。モリケンはしょぼくれてしまい、そのまま死体のある雑魚寝部屋で寝た。すごいメンタルだ。コズと高田はモリケンの悪口を言ってるうちに眠くなってしまい、ま、明日なんとかすればいいかとそのままリビングで寝た。
「で、朝起きるとモリケンはすでにいなくなっていて、落ち武者も生き返って荷造りしてるの」「おはようございます」ってあんた死んでたじゃん!「大丈夫ですか?」って聞いたんだけど「おかげですっかり元気になりましたわ」ってニコニコしながら出発したのね。キツネにつままれたとはこのことかって笑いながらコズは言う。「今日はどこに行くんですか?って聞いたのね、フツーに、東の半島に行って温泉入ってくるってさ、これでこの話はおしまい」とコズは話を締めた。「私も話を聞いたときはびっくりしたけど、まあ、生き返ったんならいいかー」って思ったの。みんなが大団円のようにわっはっはって笑いながら昨日の夜は終わったんだけど「やっぱり不思議だよね」と腕を組んでいうコズ。モーさんはその話を常宿にしているキャンプ場で聞いて、じゃあ行ってみようとやってきた。それにしても情報の伝達が早い、蜂にもその日のうちにABに死体があるという話が出回ったのだ。「ライダーハウス同士の情報ってすごいよね」と笑うコズ。「みんな知らんもの同士でしゃべるからな」とりっちゃん「それよりもモリケンが気になるな」とモーさん「たしかに、死体はないんだし」と俺。「蜂にさ、頭いい人いたじゃん」と佐藤ちゃん「誰?」と先生「ヨネさんでしょ」とハイジ。
ヨネさんは蜂にすでに2か月は沈没している農業ヘルパーで、年齢不詳、おそろしく小柄で目立たない男だった。「あの人すごいですよ、ヒッチハイクで1日500㎞ぐらい移動できるし、哲学とか宇宙とかよくわからん事話してるもん」とたまに麻雀を囲むらしいハイジが言った。「この前なんて『人は見たいようにしか世界を見ないんだよ、わかるかい?』っていいながらハネマンツモってましたもん」「あの人はただの変人じゃね?」と先生。「先生ってんだから頭いいんでしょ?」とコズが聞くが「あ、こいつは顔が先生っぽかったからそうゆうあだ名にしたん」とりっちゃん。ワイワイと場があたたまってきた。結論もなく、結局モリケンが悪いという話になり、モリケンを捕まえて警察に突き出そう!というモーさんの目がマジでちょっと危険なにおいが漂ってきた。暴力のにおい。このままほっといたら、モーさんはモリケンを捕まえて、結局警察を呼ぶことになるんじゃないか?と思ったので「じゃあ、ヨネさんに聞けばいいじゃない」と俺はいった。「面白い!」とコズが立ち上がった。
コズはそのまま電話で農業バイトをやめてしまった。翌日荷物をまとめて蜂に行くという。俺はコズにおねがいだから後部座席に乗せてほしいと頭を下げた。「エロいなあ、自分」とりっちゃんは言ったが「何と言われても結構」と真剣な目でコズに頼み込む。「絶対にエロいことはしない!!」と誓い「なんなら血判状を書く!」というと「あはは!いらんいらん!」とコズははじけるように笑った。これで恐怖のジェットコースターから解放された。と思っていた。
GSR1000は通称「隼」と呼ばれるモンスターマシンで、カワサキのH2と並んで世界最速のバイクの1つだ。最高時速は300㎞/hを超え、そのフルパワーを発揮できる場所は日本にはない。ウエイトレシオは車と比べるとメジャーリーガーとリトルリーグで、加速で隼と並ぶには1000万クラスのスーパースポーツが必要になる。つまりはほぼエンジンという乗り物。それにフレームやタイヤなどをつけ、パワーを受け止められるだけのチェーンやタイヤを装着している。コズの父親はスピードに狂っているようで、メーター、シリンダーヘッド、燃焼タイミングなどを調整、マフラーの触媒をとっぱらったり、吸気システムをより効率化にし、そのままレースに出られるぐらいのカリッカリのチューニングを施している。「だから低速が弱くてさー、我慢してね」と笑うコズ。ボボボボオボボボボボボと重低音で鳴く怪物をコントロールする姿は優秀なジョッキーに見えた。バイクの運転が好きなんだろう。町を抜け、広大な森林地帯を走り抜けるとき、コズは後部座席のことを完全に忘れているように見えた。俺は振り落とされないように必死だ。腰をつかむと運転の邪魔になるからとタイヤのすぐ真上にあるホールドをつかみ、なんとか生きて帰ることだけを考えた。狂ったスピードで右に左にワインディングを駆け抜けるコズ。りっちゃんをはるか後ろに引き離し、たまにすれ違う対向車からは暴力的な風をたたきつけられる。バフッ!!という衝撃に倒される!という感覚があり、コズはそれを体重移動で中和する。俺もコズのシフトウエイトについていこうとするが、寸前で思いとどまった。リアシートはただの荷物であろうとすること。タンデムで体重移動を使うのは、プロ並みの技術と呼吸を合わせる必要がある。というわけでかっちこちに筋肉を緊張させ続けていた。コズはノンストップで1時間30分走り続け、到着したときにまた俺は吐いた。「お帰り」と声をかけたのはヨネさんだった。
「それだけじゃよくわからないなあ」とコズの話を聞いてヨネさんは言った。目の前にはチャーハンやらビールやらが並べられている。「やっぱりかあ」と2時間遅れで到着した先生が言う。ハイジはまだ走っている途中だ。「コズさんの認識では完全に死んでいたんだよね?それでなにも医療的措置のないまま生き返るってのもありえないとおもうけど、ふつうそれだけ心臓が止まっていたら脳に血が回らなくなって死んじゃうか後遺症が残るんだよね」とヨネさん。俺はヨネさんがこんなに話すのを初めて聞いた。「じゃあ、どこかに認識のズレ、があったと思うんだけど、問題なのは佐藤ちゃんという他人の存在だよね、1人だけならなんかの間違いだといえる、でも複数いるとなると話が変わる」「どうして?」「記憶というのは不安定だ、そうあってほしいという希望があれば、簡単に切り替わってしまう、それはもう事実と言っていい、例えば統合失調症の人がみる幻覚でストーカー被害妄想ってのがあるじゃない?」あー、なんとなく聞いたことがある。「それはもちろん被害妄想で間違いなんだけど、それって他人が介入して初めて判明することだよね、その人の中では間違いなくストーカーは存在していて、事実なんだ」「でも、実在しないんでしょ」と医学部志望のおっさんが言った、酒を飲みながらコズの体をじろじろと見ている姿が醜かった。「実在・・・実在って何だろうね・・・目で見て、脳が判断している電気信号ってだけでしょう」それからヨネさんは地球が丸くなったのはなぜか?という話をはじめ、みんながその話についていけなくなっていった。この人が無口になる理由がわかる。会話というのは同じくらいのレベルでなければ成立しないのだ。ヨネさんは悲しいほど頭がよかった。彼の孤独を想像しながら、おれはちびちびと発泡酒をすすった。医学部(志望)のおっさんはすでに酔っぱらっていて、手をコズのふとももや肩に触ろうと伸ばしていて、コズは必死にかわしながらヨネさんの話を理解しようと努めていた。ヨネさんもそれに気づき、話を切り上げた。「世界は他人がいるから安定する、僕はそのモリケンってのが怪しいと思うよ」え、なんで?と聞くと「登場人物のなかで彼だけが他者であり、観測者だからね、生き返った落ち武者のことを何か知っていると思うし、関係があったはずだ」ここで医学部志望のおっさんがコズの飲み物を「ちょーだーい」といって飲んだ、キモ。おっさんが調子に乗っている原因が自分の話にあるとヨネさんも気づいていて、エホン、と咳払い。そして「まあ、僕が言えることなんてこれぐらいだよ、やっぱりこうゆう話は専門家にするべきだよね」専門家?「いま、北のライダーハウスにいるんじゃないかな?名探偵の彼」
現実世界に名探偵を名乗る人間がいることにまず驚いたのだが、名探偵コサイン木下(すごい名前だ)は存在していて、しかも先月までここに沈没していたらしい。「あー、あの兄ちゃんか」とりっちゃんや先生やハイジは知っていた。「いや、なんもせんとだらだらここでスマホみとったり漫画読んでた」「だれか話してたっけ?」「あ、僕と」とハイジが手を挙げた。「仕事の話を聞いたら『誰かに頼まれたら動く何でも屋だ』って言ってました」「そうなんだ、でも名探偵って仕事なの?」「そりゃ仕事でしょ」「だったら報酬とか発生するのかな?」「あー、小説ならそこらへん書かれてないよね」「実際、探偵頼むのってえらい金かかるっていうじゃん」「いくら?」「1日3万とか、それに諸経費がかかりますよ」と医学部のおっさんも参加してきた。「でもコナン君はお金とってないじゃん」「毛利小五郎は仕事でお金とってるでしょ」「だれかSNSでつながってないの?」と言うが、おたがい顔を見合わせて「だれも」という。なんて薄情なライダーハウス!と思ったけれど、ここでのつながりなんてそんなもので、だれも本名も知らないのだ。「じゃあ、やっぱり直接会って聞くしかないんじゃない?」「北だっけ?」「その情報だけではどこにいるかわかりませんね」「おーい、誰かあった人いる?」と横でBBQをやっていた5人に聞いた。そのうちの1人が「バイクなんでしたっけ?」と聞いてくる、やっぱりみんな面白いことには目がなくて、彼らもワイワイ参加してきた。「あれだよ、ボンネビル」「トライアンフの?」「うひー、かっこいいじゃん」「金持ちだー」スマホで俺も検索してみるが、たしかにおしゃれなバイクだと思う。だが販売価格は128万円と車に比べたら安い。「あ、このバイクなら北限の宿で見た」と目撃情報。彼は自転車で旅をしている若者で、浅黒く焼けた肌とぼろぼろのジャージが印象的だった。「たしか体格がよくて、相撲取りみたいな感じだった」「コサイン木下って名乗ってた?」「直接話してないからわかんない」
結局行くしかないって結論でその日はお開きになった。俺は「ここで留守番してるよ」とやんわり断ったのだが「お願い」とコズに嘆願される。寝る前にトイレにいく途中だった。ここのトイレは離れにあって、じゃりじゃりと砂利を踏みしめていくのだが「ちょっといい」と女性小屋からコズが呼び止める。俺はちょっと心臓が高鳴ったが「あのおっさんが『俺も行く!』ってうるさいの」と小声で医学部の粘着を告白する。「まじきもいけど、みんなの手前断るのもできないし、りっちゃんが『マジ、そろそろぶん殴るか』って喧嘩になりそうで怖い」とおびえていた。「だからついてきてほしいんだけど、迷惑?」とくりんくりんの瞳をこちらに向ける。月の光を反射するその瞳に見つめられて、カッコつけない男はいない。まさか「君の運転するバイクに乗るのが怖い」と言えないだろう。「わかった、いいよ」と精いっぱいなんでもない風に言う。明日は、何も食べないでいよう。
翌朝、荷物をパッキングしているとぞろぞろメンバーが起きてきた。北に向かうのはコズと俺、りっちゃんと先生とハイジ、そして医学部のおっさん。「じゃあ、彼によろしく、ちょっと変わった人だけど根はやさしい人だよ」とヨネさんが農作業ヘルパーの仕事に出かける前に送ってくれた。「安全運転で行きましょう」という医学部のおっさんの原付をコズは2個目の信号で完全に振り切った。
俺たちの計画はこうだった。「医学部の原付なら最北には夕方までかかるから、それまでにコサイン木下を見つける、ライダーハウスを変えているかもしれないし、もう北にはいないかもしれないけど、おっさんに追いつかれるまでに情報を仕入れて引き離す」というものだった。コズの目はマジだった。計画を立案した俺はちょっと後悔していた。なにせ北限までは海沿いのハイスピードロードを通ることになる。りっちゃんは「天気もええし、最高のアタック日和やなあ」とバトルスーツをがちゃがちゃ着込んでいた。「俺は途中の林道であそんでくる」と先生。「夜に会いましょう」とハイジ。バイクの性能差で到着予定時刻は大きく変わっていた。「目標、3時間」とコズは言った。ツーリング紙には7時間かかると書いてあった。ハヤブサはコズの炎を従順に受け止め、前方を走る車をただの障害物のように追いつき、サイドに並び、後方へと消し去っていく。そのたびにゴッ!!という空気の壁がぶつかってきた。トンネルに入るとハヤブサとコズはワームホールに入る戦闘機だった。オレンジ色の暖かい空気が一瞬の気のやすらぎをくれる。遠くに見える出口が、あっというまに広がって、再び太陽の光の中に入る。まぶしさに目をしかめるのも一瞬で、すぐにまたトンネルに入る。とても大きな川が並んでいるようだが、それを見る時間はない。コズとハヤブサについてこれるのは黒い弾丸のようなりっちゃんのCBRで「ひょおおおおおぅ!」とインカム越しに叫んでいた。コズは「集中したいから」とインカムを切っていた。小さく、魅力的なお尻が俺の股間の前で右に左に動くのだけれど、このヒップになにか性的な衝動を感じた瞬間、俺は大切な何かを失うのだと思った。それは死ぬよりもいやなことだ。ただ必死に荷物になるため、全身全霊を傾けた。トンネル地帯が終わり、川は蛇行した平野部に入る。道路も直線が多くなる。ちょっとした市街地に青看板があった。北限まで250㎞。途中高速の入り口があったので「無料高速だから入るで」とりっちゃんが言う。コズにノックし、ハンドサインで拘束に入ることを伝える。オッケーサイン。高速道路は片側1車線で、遅い車がいたらすぐに渋滞になりそうなものだった。だがだれも高速を使っていないのか、それとも全員がとんでもないスピードで走っているのか、渋滞はなかった。遠くに車があるなと思ったら、コズとりっちゃんはあっというまにそれに追いつく、テールトゥノーズのドッグファイトに入り、追い越しのための2車線になった瞬間に撃墜する。そしてまた1車線になった。高速道路は田園地帯の中央に作られていて、ここだけ小高い丘になっている。作るのは大変な工事だったろう。ふと横を見ると小さな町が下に見えた。こんなところで、一生を過ごす人生もあるんだよな・・と思う。それはどんな人生なのだろうか。やっぱり給料とか、人間関係とか、金利とか、ローンとか、いやな飲み会とか、税金とかあるんだろうな。そんな妄想をしていたら、あっという間に町は後方に消えた。まるで低空飛行をしている戦闘機だ。ローパスで敵のアンテナをかいくぐり、音速で上空を支配する戦闘機。そんなものに無防備で乗っていることが恐ろしい。だが高速道路は直線が多く、体重移動をすることが少ない。転倒するリスクが低いのだ。なのでこれまでよりもやや安心していられた。
高速を下りると「裏道でいくからついてきてー」とりっちゃんが前にでる。コズがオッケーサインを作る。「オッケー」と俺がいう。「よっしゃ、たのしいワインディングや」と小さな町の信号を曲がる。そこからは狭い平地に合わせて作られた、やはり片側1車線の道路で、ゆるいカーブの連続する道だった。「高速だとタイヤが方べりするからな!これぐらいが最高!」と大げさなシフトウエイトでりっちゃんが前を走る。コズも楽しそうにハヤブサを操るが、なんといっても後部座席に俺がいるせいかりっちゃんにはおいつけない。そこらへん申し訳ないなとちょっと思うが、こちらとしても激しく動くコズのヒップにエロ妄想をおさえるのに必死なのだ。おちんちんの前でそんな風に動かれると、どうしたってアレになっちゃうし、それを悟られるわけにはいかない。だから俺もハヤブサと一体になることに集中した。遠くのカーブを見て、コズが思い浮かべるラインを想像して、ちょっとだけ体重移動を手伝った。それをなんどか繰り返していくと、コズも俺の意図に気づく。コーナーリングの体制に入るタイミングを一瞬遅らせて、2人でより深いバンクでハヤブサを旋回させる。タイヤがヨコGを受けて若干スライドするが、グリップは失わない。2人の息を合わせることが楽しくなってきたころ短いトンネルがあり、海に出た。
海沿いのコンビニで小休止して「この分ならあと2時間でつくな」とりっちゃんがいう。「あれ、下呂は?大丈夫?」と俺を冷やかすが「全然大丈夫」と俺は言う。その理由は俺もコズもわかっている。俺はただの荷物から、ちょっとだけ走行を手伝える荷物にレベルアップしたのだ。とはいえ、胃に何か入れるのは恐ろしかった。「まあ、昼にはつくで」と2台は走り出した。
太陽が真上からヘルメットを照らし、その熱気で蒸れ蒸れの空気の中にいる。だが噂になだかいスピードロードはやはり異常だった。車の流れは常に100㎞近くで、その車をあっさりと撃墜していくコズとりっちゃん。タンクローリーやトラックが多く、それらを交わすときに自分たちよりも大きいタイヤが真横を回転しているのが迫力があった。さらにタイミングを間違うと、追い越しの瞬間に対向車が点からンバッ!と大きくなり、それに向かってアクセルを回しすれすれで走行車線に戻るということになる。「ヒィギ!」と声が漏れる。いくつかの町を超えると、巨大な風車が視界に飛び込んできた。その巨大さに「すごい・・」と声を漏らしたが「もうちょっと行くと、もっとやで」とりっちゃんが教えてくれる。海岸線をうねるように走る道路にのり、大きな崖を上りきるとその意味が分かった。視界にいくつもの巨大な風車が見える。海に向かって、くるくると回るその姿は人間の力のすさまじさを感じさせた。数を数える気にもならなかった。「絶景や」となんども来ているりっちゃんもため息をつく。コズも走りに集中するのをやめて、この景色を楽しんだ。
最後の町を超えると何もない海岸線が続いた。廃棄された家屋。断崖絶壁。べたなぎの海。高い山はなく、ほとんどが牧草地。蛇のようにうねる道に乗って、ひたすら北に向かった。やがて大きな町について、その住宅街に入る。「ここや」とりっちゃんが止まった場所は小さな川沿いにある先頭で、その隣に「ライダーハウス北限」があった。駐輪場にはいくつものバイクや自転車があったが、ボンネビルはなかった。「とりあえず、情報だけあつめよう」と俺は言った。そもそもここにいたという話だけでやってきたのだ。ガラガラと扉を開けると「いらっしゃーい!」と中年女性が笑顔で迎えてくれた。「あら、おかえりなさいかな?」という。「いや、ちょっとおもしろいことがあって・・」とりっちゃんが言った。「まあ、とりあえず名前を書きなさいな」「いや、ちゃうんです、ボンネビルのコサインさんって人を探していて」「だれ、それ?」「ここにいはったって聞いてきたんですけど?」「んー誰か知ってる?」とおかみさんがその場にいた旅人に聞く。2,3にんの若い男がリビングにいて、タンクトップの男が「あー、木下さんかな?離島にいくって昨日出てきましたよ」
名探偵探しは離島へ向かう。俺たちは宿のおかみさんに礼を言ってフェリーターミナルにむかった。まだこの時間なら最終便に間に合う、医学部のおっさんをまくのにちょうどいいと思えた。ターミナルは北限の町の反対側にあり、バイクで5分。途中コンビニでご飯やお菓子やビールなどを買い込み、突然始まった船旅にわくわくしていた。が「たっかー!」とりっちゃんとコズが値段を見て言う。確かに、往復5000円ほど、ライダーハウスを根城にしている人間にとっては高い。さらに「二輪車(250㏄以上)12000円(往復)」という値段にコズが本気で悩み始めた。どこに行くにも相棒のハヤブサと一緒のコズ。「いや、ここは、うん・・でも・・・」とベンチに座って本気で考えている。りっちゃんは「あきらめて駐輪場においてったらええやん」と軽い。缶ビールをぷしゅりと開けながらコズを説得している。ここでコズがフェリーに乗らなかったら、動く死体を見ている人間がいなくなり、人聞きの話だけで名探偵と会わなければならない。「それって勘違いじゃない?」と言われれば「そっすよね」で終わってしまう話だ。モチベーションもコズが一番あるのだし、俺は必死にというか金なんてそんなに必要ないので「俺が出すよ」といってコズだけをフェリーに乗せることに成功した。ハヤブサは北限の町で待ってもらうことにした。そもそも、離島はハヤブサが力を発揮できるほど大きくない。島にはレンタルバイクがあり、格安で借りられるという。コズのライディングに触発された俺はちょっと自分で運転したかったのだ。
フェリーは片道4時間。その間絨毯が引かれている大きなスペースでごろごろと横になったり、ビールを飲んだり、これからの計画を立てたりした。「おそらく桃のほうにいると思うわ」とりっちゃん。「それはそうだよね」とコズ。桃島、そこには有名なライダーハウスというか旅人宿があり、激烈な歓迎で旅人を迎えてくれるらしい。「だけど、柿で登山するってこともあるしなあ」「テント装備もっていってないっておかみさん言ってたし、それはないんじゃない?」「柿?」「あれや」とりっちゃんは船の左舷前方にある山を指さした。海からつきだした富士山といった山容の柿木山は登山者に人気の山で、日本のベストマウンテンに選ばれているらしい。フェリーはまず柿島に到着し、そしてその隣にある桃島に到着した。あらかじめ電話で予約していた桃宿ユースホステルの人たちが10人ほど、ふ頭で隊列を組み大きな旗を振り回していた。「おかえりなさーい!」と大声でさけび、歓迎のダンスを踊っている。俺たちはその集団につかまり、そしてトラックに載せられる。「ここでは羞恥心を忘れてくださいね!はい!バイバーイ!」とリーダーらしい男が宿の概要を説明してくれた。桃ユースは日本に残っている最後の「バカ宿」というジャンルらしく、その歴史はすでに半世紀。利用する側もバカになる必要があり、運営もすべて客としてやってきた旅人が行っているとのことだ。トラックがトンネルを抜けるとそこに桃ユースがあり、玄関の扉を開けると「おかえりなさーい!」の大号令とともに10人以上の若者が土下座をして歓迎してくれた。それから歓迎の舞やら、歌やら、劇やらが行われ、それぞれ寝る場所が与えられる。やっと名探偵コサイン木下がいるか聞けるかな?と思ったら「いまからミーティングをやるのであつまってくださーい!」と声がかかった。休まる暇はない。先ほどのホールに向かう。するとさらに人が増えている。彼らも客で、島内を縦断するアスレチックコースに参加してきた人たちだということだ。これで今日泊まる全員が集まった、少なくとも30人以上いるだろう。するとリーダーが「外に出ましょう!」と全員を引き連れると、朱く染まった夕日が海岸線に落ちていくところだった。誰の心にも響く、ぐっとくる光景だ。海岸線が夕日の色に染まると、人はどうしても碩修の念にかられる。が、ここではそんな気持ちにさせることは許されず「じゃあ、夕日よ!さらば!」と歌と踊りをはじめ、全員がそれに倣った。正直恥ずかしかった。こいつらは、すでに酔っているのだろうか?とおもったがここはそもそもアルコールが厳禁で、持ち込んだら即退去という刑務所のようなところなのだ。じゃあ、葉っぱかケミカルなドラッグ?と思うがそれも違う、彼らは自然だ。自然そのままのハイテンションだ。そのハイテンションが脳内で気持ちのいい汁を出しているのだろう。そしてここでは恥ずかしがるほうが損なのだ。「はい!ギンギンギラギラー!」とうたうリーダーと一同に合わせて、どんどん声が出てきた。横を見るとコズも歌い踊っている、りっちゃんは最初っから酔っぱらっているので全力で声を出していた。夕日が完全に海に落ち、宿でリーダーたちが作ったカレーを食う。これから酒池肉林の集団ファックが行われてもおかしくないテンションになっていたが「じゃあ、明日も早いですから寝ましょう!」とリーダーが言う。おもしろいもので、脳汁によるハッピーは脳汁の提供がなくなると一瞬で覚める。これがアルコールだったらだらだらと酒宴が続くが、リーダーのこの一言で場は解散となった。
俺たちは本来の目的である名探偵探しを思い出し、一応リーダーに尋ねた。「どんな人ですか?」とリーダーは意外に常識人っぽい受け答えをする。「相撲取りみたな大柄な男で、笑顔がチャーミングらしいです」とこれまでヨネさんやおかみさんに聞いたコサイン木下の外見を話す。「ああ、その人なら昨日、柿島にいくと出ていきましたよ」というので「キャンプですかね?」と尋ねたら「いや、寝袋があればどこでも寝られる人らしく、登山道にある避難小屋で寝ると言ってました」
「結局すれちがいやったな」「でも近い」「うん、今日登山して避難小屋にいるってことは、明日柿木山に登ればあえるんちゃうか?」「俺たちがフェリーで柿島に行くときには、すでに下りてしまってるかもよ?」「だったらフェリーターミナルで大柄な男を探せばいいんちゃう?」「見つかるかな?」「大丈夫やって」と話していたらハイジからメッセージが入った。「いま桃宿ですか?北限で名探偵と話した人がいましたよ」お!「こっちの話をしたら名探偵に連絡してくれて『柿のてっぺんで待つ』ということです」えらいぞ!ハイジ!っていうかその人経由で名探偵のアカウントを教えてくれ!と伝えると「本人は気に入った人としか連絡とらない主義らしいです」
「相当な変人らしいからね」というヨネさんの言葉を思い出す。その変人に会いに、あした山に登らないといけないらしい。そこで布団から起きだし、フロアーにいるリーダーに顛末を話した。「登山しないといけないことになっちゃった」「それは面白いですね」「装備もなんもないけど登れるかな?」「ああ、靴はこれを使っていいですよ」と靴箱の上の棚を開け、ぼろぼろの体育シューズを持ってきた。「縦断イベントで使うためのものです」「それじゃ悪いよ」「いえ、さすがに捨てようと思ってたやつなんでいいですよ」「じゃあ、遠慮なく」「できれば返却するためにまた帰ってきてくださいね」
俺、りっちゃん、コズのサイズに合う体育シューズをもらって、ついでに軍手ももらった。ヘルパーの1人が柿山に登ったことがあるらしく「9合目から地獄ですから、4つんばいで登ってくださいね!」と笑う。「君たちも客だったの?」と聞くと「今もですよ」という。この宿のヘルパーは給料が出るわけではないらしい。「初めて来たときからファンになっちゃったんです」とその女の子はわらった。旅を終え、地元に戻ってもここでの体験が忘れられず、結局仕事をやめたり休んだりして夏をここで過ごすらしい。その気持ちはわかる。今日の脳汁パカーを経験してしまったら中毒になるのだろう。酒で脳汁パカーを得ようとすれば、相当いい酒を飲むか、二日酔いになるまで飲むしかない。金がかかるし体に悪すぎる。ドラッグはつかまってしまう。近い体験をするというなら、あれだ。コズの運転するバイクにのって、戦闘機のように飛ぶ。死がアスファルトの姿となって近くにあるあの感覚。おれは「ありがとう」といって濃厚な1日を終えた。
次の日、来た時と同じようにトラックに乗り、フェリーターミナルについた。フェリーが出航するとき、リーダーたちが「また来いよー!」と旗を振り叫ぶ。おれとコズは「またくるよー!」と大声で叫んだ。りっちゃんはニヤニヤ笑っていた。
柿島につくと、フェリーターミナルは人でいっぱいだった。そのほとんどが登山者の格好をしている。でかいリックにヘルメットや登山靴が括り付けられている。サングラスをしたムキムキの外人もいる。彼らに比べたら俺たちは子供だ。子供が体育シューズで登れるのだろうか?心配になってレンタルバイク屋で聞いてみた。「まあ、人がいっぱいいますし、やばかったら避難小屋に泊まるといいですよ」という。「水と食料と着替えは必要ですね」と言われたので水のペットボトルと、おにぎりと携帯食を買う。着替えは最初から最低限持ってきていた。コズのリックに俺の分。りっちゃんは肩紐で持つ銭湯に行くための袋につめる。とても登山する格好ではない。レンタルバイクは12時間1000円という格安のもので、3台借りて登山口に向かった。久しぶりの運転が楽しかった。
登山道はとても整備されていて、土の感触が気持ちよかった。ぺたぺたと体育シューズの感触が軽い。天気も良くて、水を飲みながら進んだ。途中、湧水が汲める場所があり、水不足になる心配は減った。
順調に2合目の看板を過ぎたあたりで「アカンわ」とりっちゃんが言った。「いやー、みんな登ってるし、楽勝やろって思ったんだけどな」と汗だくの顔で笑う。10分おきに休憩しながら進むのだが、そのたびに煙草を吸いたがった。これじゃあ、日没まで山頂どころか避難小屋にも到達できないだろう。「わし、今日はカキタマに泊まる」といって引き返してしまう。カキタマとは柿島にあるライダーハウスで、俺とコズも「そのほうがいいね」と彼を見送った。2人になりペースはあがる。昼過ぎには5合目に到達し、7合目にある避難小屋で休憩をとった。避難小屋に入るとそこは薄暗い空間で、胸の高さぐらいのロフトがある。でかい2段ベッドが小屋の半分をしめていて、その一角に荷物が置かれていた。旅人らしい、使い込まれた寝袋とクッカー。名探偵コサイン木下の荷物だ。「きっといるね」とコズがいう。外に出ると柿木山の山頂がみえた。海から見たときは富士山のような台形をしていたのに、ここから見る柿木山は人を跳ね返す鋭利な突起そのものだ。ぎゅむりと体育シューズを踏みしめて山頂へ向かう。8合目からは樹木が限界に達しているのか木がなくなってしまう。岩がむき出しになり、落石注意の注意書きが出てきた。斜度も急になり、上から石が落ちてきたらひとたまりもないだろう。自分たちも注意して登るのだが、どうしてもパラパラと小石が下に落ちていく。登山道保護の砂袋が埋められており、杭で固定されたチェーンを使って這い登った。9合目からはさらに斜度が厳しくなり、四つん這いで登る地獄、といった風情となる。海を渡る風が容赦なく吹き付けて体を揺らす。眼下はるかに森、その先に鼠色の町。本能的に「落ちる」と感じさせる高度感だ。砂まみれの体を海風にたたかれながら、何も考えずに手足を動かした。つかまるべき岩、足を乗せるべき土、後をついてくるコズのためにやや小幅で最適な答えを探す。すると目の前に小さな神社が見えた。顔を上げると大海原が見えた。向こう側が見える、山頂だった。
「コズ!」と叫ぶ。疲労でぐちゃぐちゃになった顔のコズが「え?」と顔を上げる。そして「やった!」と笑顔に変わった。「やったやった!」と2人で喜んだ。誰もいない山頂で激しく喜んだ。誰もいない?
喜びが絶望に代わる。山頂は大きくない。バスケのハーフコートぐらいだろう。登ってきた道とは反対側にナイフエッジの道があり、200mほど先にここよりもやや低い山頂がある。そこに、小さな人影がある。「まさか、あれ?」と2人で顔を見合わせていたら下から登山者が昇ってきた。すいませんと声をかけ、この先に道ってあるんですか?と聞いた。「ああ、前柿木山の山頂だよ、ここよりも低いけどいけなくもない」と紳士は言う。「柿木山の山頂は細長い形をしていて、本土から見ると富士山みたいな形をしているんだけど、町から見るととんがっていたでしょ?こうゆうことなんだよね」と解説してくれた。「行くなら風が強いし、道ももろいから気を付けてね」親切にどうも。
横から吹き付ける強風にさらされながら、その吊り橋のような道を歩いた。踏み固められていないのでもろい。横を見るとノンストップで落ちていくような岩肌。死を意識させられる道だ。慎重にすすむ。前柿木山山頂にいる男がこっちを見る。相撲取りのような大柄な男。名探偵コサイン木下だった。
「あ、ひょっとして僕に用がある人ですか?」と人懐っこい小さな瞳で笑う。うなずくと「いま、名刺もってきてなくてごめんなさい、名探偵をやっていますコサイン木下です」大海原を背景にあいさつを交わす。頭上にある太陽がコサイン木下の真上からやや後ろにあって、後光がさしていた。健康的な大男。名探偵のイメージとはかけ離れている。変人という感じもしない。「じゃあ、話を聞きましょうか・・と行きたいんですけど、僕も水を切らしていて今日中に下りたいんですよね」「避難小屋は?」「あそこにある水はもう飲めなくて、ケータイの電池も切れかけてるんです」「天気もこれから下り坂ですし、町で話を聞きますよ?」俺は山頂からりっちゃんに連絡し、カキタネに宿泊の予約を入れた。
3人でナイフリッジを超え、地獄の下り坂を慎重に下りた。避難小屋で荷物を回収し、再び森の中に入る。体力と集中力が落ち、枝木に頭をぶつけたり、岩に指をつぶされそうになったりしながら進んだ。湧水にありついたころにはペットボトルの水は空になっていて、携帯食料もそこですべて食べた。自分のレンタルバイクを見つけたときはなんてかっこいいバイクなんだと感じずにはいられなかった。アクセルをひねるだけで前に進む、風を切る、カキタネは小さな民家だった。りっちゃんがすでによっぱらってエントランスにおり、オーナーと話していた。「お、おつかれさん!」と笑う。俺とコズは疲労で倒れそうになるところをなんとか部屋に案内してもらい、2段ベッドの1つをあてがわれ、シャワーを浴びてへたりこんだ。起きると夜になっており「飯食うで」とりっちゃんに呼ばれる。エントランスにはウニとごはんがあった。「アホみたいな値段でウニ売っとったわ」と笑う、初めて彼を許してやってもいい気分になった。ビールを流し込み、ウニを食う。口に入れたとき、ウニは気化しはじめる、体がウニを吸収する、濃厚なうまみを口内に残し消える、この旨さに驚いた。コズやコサイン木下も驚いていた。「おいしい!」「ゲロうめえ!」「ゲロ?」「あ、すんません、口癖なんです」コサイン木下の言葉ついはかなり下品ということがわかる。
「じゃ、話聞きますよ」と濃厚なウニをたらふく食ったコサイン木下が言う。消えた死体の話、モリケンというおじさん、何度も話しているので要領のみを伝えることができたと思う。コサイン木下は初めて名探偵っぽい表情で「なるほど」と言った。よこで聞いていたカキタネのマスターも「変な話だねえ」という。「やっぱ生きとったんちゃうん?」とりっちゃんが横やり。「っ絶対ない!」とコズ。「だから名探偵がいるって聞いてやってきたんだもん!」と顔をまっかにしてコサイン木下を見た。俺たちはすでにコサイン木下の名刺をもらっていて、そこには確かに「名探偵」と銘打ってあった。「ゲロやべえ話ですね」と名探偵の推理が始まった。
東の果てにモリケンを追い詰める。りっちゃんとハイジが南から、コズと俺とマー君は北から東の果てを目指した。印象的なアーチ状のモニュメント。その下にモリケンはいた。
「あ、おそろいですね」とにっこりモリケンは笑う。その姿はまるでこうしてここにいることを最初からわかっていたように見える。「じゃ、始めましょうか」と余裕たっぷりだ。「なにを?落ち武者殺しの自白?それとも窃盗の懺悔?」「いえ、あなたのカウンセリングです、コズさん」ああん?いつのまにかコズの近くに来ていたマー君が言う「この人が名探偵コサイン木下さんなんっすよ」なんだって?じゃあお前誰だよ?「バイトっす、ちなみに雇い主はコズさんの親御さんっす」頭が混乱して俺は何も言えない。コズは殺気を抑えずにモリケンをにらんでいる。「ゲロびびったっしょ?まあ、詳しくはうちの師匠から聞いてください」師匠、ことモリケン、こと本当の名探偵コサイン木下がにやりと微笑んだ。「お、初めて顔を見てくれましたね、どうですか?そんなに悪い人相でもないでしょう?でも、さっきまでは非道な中年おやじだったんじゃないですか?」「・・・・」「すべてはイメージなんです、人は見たいようにしか世界を見ない」「あんた何者?お父さんになんて言われてきたの?」「何者に見える?」「・・・・お父さん?」はい?とコズを見る。コズは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。「ここじゃなんだし、今日は近くのライハに泊まろうか」とモリケンこと、名探偵コサイン木下こと、コズのお父さんが言う。「あんた一体何もんなんだ」とつい聞いてしまった。
ライダーハウス国東食堂はいわゆる普通の一軒家で、2階にいくつか部屋があり、そのうちの1つにコズを寝かせた。ひどく顔色が悪く、つらそうにしていた。すべてを知っているモリケン(と呼べと本人が言った)とマー君につかみかかりたくなる。というかりっちゃんがつかみかかった。「で、いったいどうゆうことよ?」とマー君の胸倉をつかむ。この巨体な元力士はにっこりと笑って「いや、ゲロ難しい話なんで、師匠から聞いてください」という。「まあ、娘が起きてきて、晩飯食ったあとでもいいじゃない」ふーん「ところでもう自殺なんてする気がないでしょ?」は?「いや、ほんとどこから話したらいいかわからない話なんだよ、さっきも言ったけど人は見たいものしか見ないからね」「野球で例えるならひいきの球団が負けているときはテレビを消すとかっす」「阪神の新井さんがゲッツーを打った時は見てみないふりをするみたいな?」「悪いけど野球以外で例えて」「じゃあ、韓国映画で」「あんま知らない」「私の中の消しゴム見てないっすか?ゲロいい映画っすよ」「娘は若年性認知症だ」
介護施設で働くモリケンは名探偵としての副業を持っていて、割と忙しく生活していた。白河12人珠数つなぎ殺人事件では
これをチャットGPTにリライトしてもらう
「ちゃんとつかまっててね、女の子なんだからさ」
あの頃の僕は、バイクに乗るのがとにかく楽しくて、速く走ることにしか興味がなかった。
そんな僕の後ろに乗ってくれる奇特な女の子がいたから、僕はやたらとスピードを出してた。
怖がらせたくて、ってわけじゃない。……いや、ちょっとはそういう気持ちもあったかもしれない。
CBR250RR。四気筒のレーサーレプリカで、250ccのくせに18000回転まで回るバイクだった。
「うわっ!」
ついさっきまで静かだったエンジンが吠え出した。
「ウォン!」と、まるで狩猟犬が威嚇するような鳴き声。
それから「コオオオオオオオオン!」という、鋭くて乾いた高音。
体がシートから浮き上がる。
景色がぐん、と後ろに流れていく。
顔に当たる風が一気に重くなって、ヘルメットが引っ張られる。
僕は気持ち良くてたまらなくて、笑っていた。
背中にしがみつく彼女が何かを叫んでいたけれど、何も聞こえなかった。
──夜。
高速道路を降りて、僕たちは海沿いの道を走っていた。
白くて細いガードレールと、その向こうの暗い海。
遠くに船の灯りがちらちらと揺れている。
バックミラーには、誰もいない。
風がぬるくて、潮の匂いが強かった。
「なにこれ……やばいね」
ヘルメットを脱いだ彼女は、ぐったりしていた。
でも笑っていた。
「ちょっと飛ばしすぎた?」
「飛ばしすぎってレベルじゃないよ! ……でも、楽しかった」
「でしょ?」
笑いながら、ふたりでペットボトルの水を回し飲みした。
僕たちが目指していたのは、無料のライダーハウスだった。
少し前にバイク雑誌で見つけた、海沿いの古い民宿。
部屋はボロボロ、シャワーもなくて、トイレは共同。
でも、無料。バイク好きが集まる秘密基地みたいな場所だという噂だった。
夜の11時を過ぎた頃、その建物に辿り着いた。
古くて低い、瓦屋根の家。
中からは、何も聞こえなかった。
「……ここ? 本当に?」
玄関には、木の看板が斜めにかかっていて、「自由宿」と手書きされていた。
その下に「勝手に上がってください」とも書いてある。
「なんか、こわいね」
「うーん、でも……ここだと思う。地図では、たぶん」
靴を脱いで上がりこむ。床がぎしりと軋む音。
廊下は薄暗くて、天井が低かった。
ふと、微かに灯りが漏れている部屋を見つけて、僕たちは中に入った。
四畳半の畳の部屋。天井からは蛍光灯が一本だけ、じい……と音を立てていた。
誰かの荷物が、隅っこにまとめて置かれていた。
「先客がいるみたいだね」
壁に貼られた注意書きには、「先に寝てる人がいたら、邪魔しないように」と書かれていた。
なるほど。そういうゆるい感じなんだ。
毛布を借りて、僕たちは畳の上に並んで横になった。
潮の匂いと、畳の匂い。
彼女はすぐに眠ってしまった。
僕だけが、なかなか寝つけなかった。
──何か、変だ。
天井の模様がじっとこちらを見ているように感じた。
隣で眠る彼女の呼吸が、やけに大きく聞こえる。
体が重い。
そして──何かが、部屋の隅からこちらを見ているような気がした。
(……あれ?)
首を動かすと、畳の上に何かが置いてあるのが見えた。
白い、ビニールの袋のようなもの。いや、違う。
──人間だった。
ぴくりとも動かず、横たわっている。
誰かの寝袋? にしては、妙な形。
空気が、変わった。
ぞわっ、と背中に冷たいものが走った。
その瞬間、僕はようやく気づいた。
この部屋──最初からずっと、死体がいた。
・・・ホラーになってる!!!