「4時起きで斜里に向かって、8時から斜里岳登山。15時には下山して、知床のカムイワッカに車をデポする。翌日は2時に起床して羅臼岳にまず上り、知床の尾根を硫黄山に向かって縦走する10時間コースを歩く。そして、その日のうちに美瑛に帰宅する」
そんな計画を聞いて「できるわけがない」と思ったりもしましたが「大丈夫」と企画者のOさんが言うのでついていくことにしました。この人の企画はO企画と私の中でブラックリストに入っていて、だいたいひどい目にあうのです。
今回も無茶だと思いましたが、憧れの2座ということで強行します。午前2時に起きてしまいました。寝床で、知床の熊に殺される妄想に苦しんでいました。
「これが、死か?」とガチで考えます。ここで、人生が終わってしまうかもしれない。そんな気分で4時にOさんをピックアップ、高速を走り4時間後には斜里岳登山口にいました。
登り4時間、下り2時間ちょっとで合計6時間。15時ごろには温泉に入り、車をデポする計画にはいります。車は前乗りしていたナスくんのを使わせてもらおうと思ってました。
が、全然伝わってなかった・・・「え、今羅臼のキャンプ場にいて、お酒飲んじゃいました」
ああ、憧れの羅臼岳が、冒険の知床縦走が・・・仕方ないので、ナスくんの車をOさんが運転して、とりあえずウトロに向かいます。
最初は、ナスくんにちょっとムカついてましたが、よくよく考えれば、彼は登山初心者。午前2時に起床するなんて、夢にも思わないでしょう。そして、羅臼岳のメジャーなルートは羅臼のキャンプ場から登るコースです。彼を責めるのはちょっとスジ違いかもしれません。
そもそもが、無茶な計画なのです。連日2座登山というのも、トレーニング不足の私にとって重いもの。「いけるいける」とてきとうプランシェフは言いますが、絶対適当だと思ってました。
つまり
・ナスくんの認識不足
・私のトレーニング不足
・企画のシェフの気まぐれすぎる計画
の3要素が絡んでいるのです。・・・・暗雲。しかも、時間がおしています。真っ赤な夕日が羅臼岳を照らし、日没を迎えようとしていました。これからナス君の軽自動車で、カムイワッカまで・・・?マジで?かなり長いダートだったような・・・
2時起きの体も眠いと言っています。うーんと考えて、明日起こりうることは。
・これから車をデポして、3人で知床縦走
・ナスくんか私、もしくは2人で羅臼岳ピストン、Oさんだけ縦走
どちらかになるはずです。そして、ナスくんはカムイワッカがどこにあるかも知らないはずだし、そもそも、登山初心者で羅臼岳はけっこうキツい山。自分がピストンして、車を縦走ゴールまで持っていくのが、もっとも安定したフォローだと思いました。
斜里岳だってキツかったんです。羅臼岳ピストンでも十分でしょう。知床縦走はとてもとても魅力的ですが、砂を噛む気持ちであきらめました。
翌日、2時に起きます。3時ごろ登山開始、山頂には8時につきました。脚がくたくたで、全く動きませんでした。途中、Oさんとすれ違います。「じゃ、カムイワッカで」と別れました。
山頂で楽しんだ後、ナスくんと2人で下山します。すると「熊がいますよ」と下から登ってくる人がいいました。
おお!熊だ。野生のヒグマを見るのは3回目ですが、ここまで落ち着いて観察できたのは初めてです。草をむしゃむしゃ食ってました。
正直カワイイ。じっと見ていましたが、逃げて行ってしまいました。こちらを意識してましたが、襲い掛かってくる心配はなぜか全くありませんでした。すばらしく、美しい存在だと思います。
少し降りて、ナスくんと熊について話してたら、登ってくる登山客のおじさんが。「熊がいましたよ」とナス君が言うと「いるね」とおじさん。どうやら、地元の人で「こっちが熊の家におじゃましてるんだから」と笑います。
このおじさんの話が面白くて「知床の熊の気性はやさしいから大丈夫、でも、目の前で立たれた時は驚いた」「じっと目を合わせて、ゆっくりあとずさりすればいいんだよ」「人のにおいがするところには立ち入ってこないよ、でも、水は飲みたがるからここ(小さな沢でした)とか実はやばいんだよね」と為になります。
それからも、リスとか、鹿とかに遭遇しながら昼頃無事下山しました。車に乗り込み、カムイワッカへ。やはり、長いダートでした。こんな道を夜走っていたら、ちょっと怖かったでしょう。
カムイワッカに浸かろうと思ってましたが、20年ぶりに訪問すると、一番下の滝つぼしか入れず、しかもぬるい。とっとと寝ることにします。
Oさんが到着しました。15時。「どうでした?」と聞いたら「やばかった」とのこと。「これからは、気軽に人を誘わないようにする」と言います。とにかく難易度の高いコースで、誰かを連れていく余裕が全くなかったとのこと。
ちょっと背中が寒くなりました。もし、ナスくんが酒を飲まずに、車をデポできていたら、私は付いていく予定でした。キアイで登る心構えでした。きっと、ヤバいことになっていたでしょう。
すべては上手く収まったのです。よかったよかったと車を走らせ、22時前に美瑛に帰ってきました。