ライダーハウス蜂の宿

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苦痛の海を泳ぐ

先日実家に帰ったときに、郵便局の先輩に「飲まないか?」と誘っていただいた。

ついでに将棋をする。前回、こちらの家にお招きしたときに1勝1敗だったから、今回もいい勝負できるだろうと思っていた。が、結果はボロボロに負ける。やはり、有段者は強い。酒が入っているのを言い訳にしたいところだ。

 

「あいつおぼえているか?みやちゃんよ」と先輩が話す。みやちゃんとは、いっとき私のちょくの上司になった人のことだ。「おぼえてますよ」「話すか?」と電話する素振り。特に話すこともなかったので「べつに、いいっすよ」といったが、先輩は話したかったらしい。まあ、私も嫌いな人ではなかった。ただ、この人の真似はできないとおもったのだ。

保険の営業というのは、とにかく契約をもぎ取るのが仕事だ。その裏技のようなことを、沢山持っている人だった。だから、苦しそうに見えた。まっすぐ、日の当たる道を歩く人ではない。

電話越しに話すみやさんは元気そうだった。この明るさはすごいと思う。保険屋の素質なんだろう。私にはないものだった。「ところで、今どこにいるんですか?」と聞いたら、とある地方土地にいるということ。そこには、一時私の同期がいたはずだ。その同期とは、一緒に富士山に登り、結婚式まで出席した。

「ああ、あいつインストラクターになったよ」と言う。インストラクターとは、保険営業のスキルを教える仕事のことだ。彼は、私よりは営業成績は上だったが、それでも抜きん出た実力者ではなかったはず。だから驚いた。出世したんだなあ・・としみじみ思う。そして、彼の歩んだ。というか泳いだ苦痛の海を想う。

保険営業では資質が物を言う。そして実力主義の世界だ。できないことを言い訳することはできない。売れないものは去るしか無い。

そこには、やさしさやおもいやりは無い方がいい。そして、同期はやさしくておもいやりのある、イイヤツだった。とてもじゃないけど、保険営業の世界でいきていくタイプではない。

ごくたまに、いい人で、保険営業の優秀な人がいる。ただ、彼らは総じて心に傷を抱えている。とある研修であった人は「崖が目の前に見えた」という。つまり、死だ。その崖はきっと、本物の崖のように、飛び込んだら死んでしまうヤツだ。

笑って隣人を鬱に追い込んだり、過去の窃盗自慢をしたり、はたまた本当に家族のために真摯な仕事をしたり、保険営業の世界には様々な人たちがいた。皆、間違いなく、苦痛の海を泳いでいる人たちだ。自分には泳げなかった。きっと、死んでいただろう。

今もきっと彼は泳いでいる。一緒に富士山に登った私達の差はとても大きい。もう、遠い存在すぎて、話しても話題は過去のことしか無いだろう。

それが、すこし悲しかった。実家に帰るたびに、こんな気持ちになる。