阿部公房「 榎本武揚 」を読んだ。
それがあっさりと滅び、投獄され、それから
明治政府の大臣を歴任した。
小説家の想像を掻き立てる濃厚な人生を送ったんだな。
グローバルな視点、大局観、士道の捉え方、どれも興味深かった。
彼が北海道に見た夢はどんなものだったんだろう?
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北海道に見た夢
土方歳三
土方は豪農の生まれながら士道を重んじ、
鬼の副長として新撰組の規律を厳格に守り通した人だ。
武士たるもの・・・と味方をばっつんばっつん裁いていたんだろう。 鬼だ。
鬼だから戦争にはとても強い。 阿部公房はナポレオンを引き合いに出している。
軍を束ねる者をして抜群の才覚を持っていたんだろう。
薩長に追われ、蝦夷まで落ち延びても、あっさりと道南を納めている。
カリスマだったから部下もついてくるし、土方がいるなら・・って
やってくる人間もたくさんいたはずだ。
阿部公房の想像はこうだ
蝦夷共和国は陸軍だけなら持ちこたえることが出来たんじゃないか?
海軍を榎本武揚に任せ、西欧列強の助けを借りて、10年くらい続けていれば力もついて「 一路南進! 」ってやってたんじゃないか。 ありうる。
サムライとして主人に忠誠を尽くすには、これしかなかった。
薩長だって、北海道までわざわざ進行するのは骨だろう。 10年はありうる、
もしかしたら20年は持つかもしれない。
その間に北海道を征服し、鉱物資源に手をつければ、西欧から当時最強のブキや、
電気通信装置や、いろんなものを買うことが出来ただろう。
そこに土方歳三という戦争の天才がいるのだ。
榎本武揚
海軍を束ねていた榎本は土方と共に蝦夷入り、海から土方を支援する。
先見の明のある人だ、西欧から最新の戦争アイテムを取り入れて、おそらく
北海道の可能性にいち早く気付いていたに違いない。
津軽海峡を境に日本分断は榎本のアタマに絶対あっただろう。
そして、それには西欧の助けが必要だと。
その証拠に、蝦夷共和国は投票でリーダーを決めたり、国際社会に認められるように
国を立ち上げていた。
西欧の支援は取れる核心もあったはずだ。
現実の朝鮮半島のように、南北に国が分かれる可能性は十分にあったのだ。
さもすれば、日本を征服できたかもしれないだろう。
「 だけどなあ・・・・ 」ってつぶやいただろう
蝦夷共和国は傀儡国家になることが避けられない道なんだよなあ。 財政も厳しいし、
国として軌道に乗せるには西欧の援助が絶対に必要、だけど、
忠誠を誓うべき徳川はもうとっくに散らばっていて、士道をとおすべき場所は
どこにもないんだよな。 おれは白人を呼び入れた売国奴ってことになるんじゃないか? うーん、まいったなあ。 いっそのこと薩長に蝦夷ごと渡すのが一番なんだよ、
だけど、アノ人がんばっちゃうんだろうなあ・・・・ あっさり道南を平定しちゃったもの。 士道を全うするのはいいけど、そしたら日本もズッタズタになっちゃうんだよなあ。
蝦夷共和国は士道の夢と切腹の場所
蝦夷共和国までやっといて、榎本武揚は「 いかに奇麗に負けるか? 」という行動をしている。 裏切りとも取れる行為だった。
だけど、それはグローバルな視点を持つ榎本にとっては「 日本 」に対しての忠誠心が起こした行動だったのだ。
理想や、夢や、武士道は土方歳三と一緒に蝦夷共和国という袋に入れて燃やしてしまったんだ。
我々はその夢の残滓が残る場所に住んでいる、そう思うとちょっと気持ちが高ぶるじゃないか。
史実とどれくらい差があるかわからないけど、小説「 榎本武揚 」はこんな想像を掻き立てるよい書物だった。
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